はい、こんにちは。
観てきましたよ、劇場版「光のお父さん」。
いい作品でした。ストーリーのネタバレ無しで、私なりのレビューを書いてみましょう。
吉田鋼太郎の凄まじさ
岩本暁役の吉田鋼太郎という役者がとにかく凄かった。凄まじかった。
ドラマ版を観ていた私に深く深く印象に残っていた大杉漣さんのお父さん。「退職してからはしょぼくれてしまった冴えない親父」「でもじんわりとあたたかい親父」「スーツを着たらいきなりかつてのエリート社員の輝きを取り戻す親父」を絶妙に演じていた。
その大杉さんの突然の訃報。ドラマ版のファンのショックも大きかった。
劇場版はドラマ版と同じスタッフが制作するという。でもキャストは当然変更せざるを得ない。
千葉雄大・大杉漣に代わる新たなコンビは坂口健太郎・吉田鋼太郎。これまた大物俳優の抜擢に、光の戦士(FF14プレイヤー)もどよめいた。
「大杉さんの演ってらっしゃった役をやらせていただくことになって、とても光栄でとても責任が重大だなと、でも頑張ってやっていきたいなと思って今撮影しております」
東京ファンフェスの制作発表で鋼太郎さんはそう言った。
その引き受け方の凄まじさを私は今日思い知ることとなった。
ふとした場面で、大杉さんが乗り移ったかのような同じ演技をしてみせ、私の記憶を揺さぶる。かと思うと、重要な場面では全く違う解釈と表情でその場を全て自分のもとに引き寄せる。
抑えていた感情を爆発させる瞬間は、暁の人生の全てを絞り出すような迫力で。
ああ、この人はシェイクスピアの名優であり、演出家でもあったのだった。芝居の全てが世界中の名立たる役者と比較される中で、常に自らの芝居を作り上げ、その舞台の中央に立って戦い続けてきた人なのだった。
大杉さんの演技もろとも引き受けて、新たな道を繋いで見せてくれる、そのことが可能な役者なのだった。
ありがとう。貴方がこの役を継いでくださって本当に良かった。
若い頃のお父さんはまるで別人のように若々しい。よく似た別の役者さんじゃないんだよね? リンボウ先生にも似ていた。
退職したばかりのお父さんはそんなにしょぼくれてはいない、昭和の頑固で無口な親父像。でもやっぱりスーツを着ると化ける。
目とおデコのシワだけで演じる数秒間もある。じっと座っているだけなのに、家族に漂う緊張感も凄い。
インディ役で声も演じているのだが、これまた別人のように新人ギルドメンバーの爽やかさがある。若い。新しい世界で溌剌と駆け回り、新鮮な体験にはしゃぐ、そんなお父さんの内面が鮮やかに描かれる。マイディーの戸惑いはリアルだ。
坂口健太郎の真摯さ
岩本アキオ役の坂口健太郎さんもまた素晴らしかった。
広告代理店に勤める普通の会社員。ズバ抜けて優秀というほどでもないが、真面目に仕事をこなし、家に帰ればフリーカンパニーのリーダーとしてこれまた真面目にゲームプレイしている。
父との関係に悩み、戸惑い、ドタバタとしながらも少しずつ距離を縮めるのだが、最初のギクシャクとした居心地の悪い空気感から、少しずつ笑みがこぼれる過程がとても良い。坂口さんがニコッとする度にこちらはホッとする。
坂口ファンが見たいと思う表情が全部見られる映画、と言ってもよいのではなかろうか。仕事に打ち込む横顔も良いし、落ち込む時の捨てられて雨に濡れた子犬のような目も良い。ラブコメのようなどっぷり甘い恋愛シーンはほぼないが、その日常感がまたちょうどいい。大丈夫、キュンキュンできるぞ。
この映画のアキオは、どこにでもいる普通の青年でなければならなかった。ゲームのネガティブなイメージを払拭し、「オンラインゲームをしているのはごくごく普通の人なのだ」というメッセージを届けねばならなかった。人生に向かってきちんと生きている真摯さを常に持っていなければならなかった。
鋼太郎さんの凄まじい演技をがっぷり四つに受けながら、クライマックスでは感情を爆発させながら、彼は真っ直ぐであり続けた。W主演の名にふさわしい存在感を見せつけたように思う。
山本舞香の牽引力
妹の岩本美樹役の山本舞香さん。父とはあまり仲のよろしくない最近の娘、という役どころ。
今回は114分の映画という制約の中で、物語をグイグイ進める牽引力が必要で、彼女はその重要な鍵を握っていた。
声が良い。メリハリのある聞きやすい発声とストレートな物言いが気持ち良く物語を引っ張ってくれる。兄のようなおっとりタイプのいい子ではないし、かと言って、ただのふてくされた小生意気な娘でもないのだ。
後半、父との関係が大きく動く場面の表情が良かったなぁ。目に強い光が宿っている。彼女ならきっと自分の力で幸せになるな、という頼もしさもある。
佐久間由衣の癒やし
会社の同僚、井出里美役の佐久間由衣さんは心のオアシスだ。
家でも会社でも、モヤモヤすることが多くて重くなりがちな空気をフンワリ軽くしてくれる。
舞台挨拶や番宣ではむちゃくちゃ美人だな!とびっくりしたんだけど、劇中ではちょっと天然な可愛さをキープ。
プレイキャラのユニークさとメンバーへの溶け込みの早さがいいよね。
こういう彼女がもしもいたら、長続きしそうだなと思わせてくれる。
財前直見の安心感
お母さん、岩本由紀子役の財前直見さん。
いやー、なんだろう、このお母さんなら大丈夫かなと思ってしまう。
これまた普通のお母さんなんだよね。昭和のサラリーマンを支えてきた感じの。でもなんかあんまりオロオロしてない。今までいろいろあったんだろうなぁ、その度に頑張って乗り越えて、今はもうしっかりと家庭内を掌握してるんだろうなぁという安心感。
お父さんがゲームにハマっちゃうのに怒ったりもするんだけど、でも自分もハーバリウムの作品いくつも手がけているから、趣味の大事さがちゃんとわかっている。
お母さんを必要以上にヒステリックにしなかった脚本と演出には拍手。
佐藤隆太はムードメーカー
会社の先輩、吉井晋太郎役の佐藤隆太さん。
真面目で無口な男性二人の話だから、どうしたって地味な場面が続くところを、リアルパートでのきりんちゃんみたいな役割で頑張ってくれている。
佐藤さんは空回りしそうな、でもギリギリ行けるかな、みたいな一生懸命さが上手いよね。
今回は後輩を思う時のキッパリとした優しい表情が凄くいい。
輝いていたバイプレイヤーズ
妹の彼氏、工藤賢介役の前原滉さん。
この人は役者さんの顔だ。何にでもなれる顔をしている。
舞台の場面も、その直前の場面もいい表情をしていた。あのネタもメジャー級の面白さはなく、でも重要人物が思わずクスッとしてしまうくらいの絶妙な面白さが必要で、前原さんは光ってたなぁ。
これからますます引っ張りだこになりそうな役者さん。
クライアントの中島秀隆役の和田正人さん。
この方もあちこちで印象に残る役者さんだ。地味そうな役のに要所要所で眼光鋭いからかな。
最後の表情はどうするんだろう、と気になったが、なるほど。
上司の三原健一郎役の山田純大さん。
佐藤さんとの軽妙な掛け合いがベタと言えばベタなんだけど、ちょいちょい見せる、後輩を可愛がっているんだなあとわかる表情がいいんだよね。こういう上司ならいいなぁ。
エオルゼアパートはすぐそばにある世界
ドラマ版より遥かに自然なお芝居になった、とFF14プレイヤーは感じるエオルゼアパート。
果たして、プレイヤーではない観客にはどう映ったんだろう。ここはわからない。
後半は怒涛の力業な展開もあったし、かなり大胆にデフォルメされている部分もある。
でも、風景の美しさは私が普段見ているエオルゼアそのままだ。キャラクターの細やかな動きもありふれた日常だ。
「キングスグレイブ」やティザートレーラーのようなフルCGではなく、ゲームにログインすればすぐにでも自分の目で見て歩ける「すぐそばにある世界」だ。
自分の目で見て歩けるからこそ、世界はより一層美しく映る。
ただの青空に「ああ綺麗だな」と感じてシャッターボタンを押す、そんなプレイヤーの気持ちが少しでも伝わっただろうか。
最初のカットにあの映像を持ってきてくれたのは上手いね。一番リアルだと感じるのはまさにあそこ。
最後の数カットは、このアーリーアクセスの前に観に行ったプレイヤーへのご褒美かな。( ̄ー ̄)ニヤリ
南條愛乃さんのマイディーさんも良かったよねぇ。男性なのに女性キャラ使うの?えっ?というような違和感を感じさせずにスッとお話に入っていける。清々しい声というのかな。
悠木碧さんのきりんちゃんはマスコットのような可愛さだ。デフォルメだと思うかもしれないが、きりんちゃんのようなロールプレイを楽しむプレイヤーもたくさんいるし、もうみんな慣れっこでそれほど気にも留めない。実はかなりリアルなのだ。
寿美菜子さんのあるちゃんはゲーム内のお母さん的存在。優しく暖かくメンバーを見守る大人。ゲームプレイヤーも普通の良識ある大人なんですよ、という表現のキーマンとなっている。癒やされるわぁ。
アキオの部屋はおもちゃ箱
もうとにかくアキオの部屋はFF14グッズであふれている。コアなファンなんてレベルではない。
最初の感想は「マザークリスタルでかっ!」。
時折映る部屋のあちこちを仔細に見るのも楽しみの一つ。ミニオンも多いよ。
でもねアキオちゃん、ベッドの真上にアート本と世界設定本を置くのはオススメしないのだわ。あんな重い本、地震で倒れて落ちてきたら命の保証はできないぞ。
祖堅正慶が本気で殴ってくる
とにかく祖堅さん(エオルゼアパート・サウンドディレクション)がこれでもかと名曲を叩き込んでくるのがツライw
いやいやここでこの曲ですかとなんべん心でツッコんだかわからない。
どれもこれもそうだけど、マトーヤが…マトーヤが…。
親子の関係
テーマは親子。少しずつほぐれていく親子の距離がみどころだ。
この映画を観ると、自分と親との関係を思い起こす人も多いのではないだろうか。
父との思い出か…。冬の奥穂高岳に登るくらい登山が好きだったから、子供の頃は九重とか阿蘇山とか立山とか連れてってくれたなぁ…。雷鳴ったりしてトラウマになったなぁ…。
野球やアイススケートも教えてくれたっけ。あれ、マラソンも速かったよね。結構スポーツマンだったんだな。
最新機器が好きな癖に配線一つもできなくて、転勤の度に私が家庭内の配線を一手に引き受けていたっけなぁ…。
引っ越しの片付けで、佐藤さんが見つけたモノを見つけたこともあったなぁw
コミュニケーションはわりと取れていたのではないかと思うけれど、ある日あっさりと倒れて亡くなってしまった。もう数年前のことだ。
一緒にこんなふうにゲームをできていたら、離れていても父の寂しさに寄り添えたのだろうか。
また一方、私は親側でもあるのだ。
我が家はゲーマーのライトパーティだ。それぞれの部屋にゲーム環境を作るとコミュニケーションが無くなるし、配線もめんどくさいし、とリビングにゲーム機器を集結させ、会話をしながらワイワイ好きなゲームに興じている。
子供達が大きくなって、お互い離れて暮らすようになって、何を考えているかもわからなくなる日がくるのだろうか。その時、関係性を再構築しようとして、この作品を思い出すのだろうか。
伸ばし放題の息子の髪型が、まさに坂口健太郎ヘアだったのでそう伝えたらまんざらでもなさそうだった。とりあえずモフモフしておこう。
オンラインゲームの現在
この映画を観て、どれくらいの人がオンラインゲームに興味を持つのだろうか。
この作品でも語られるように、オンラインゲームはもうそれほど閉じられた世界の根暗な趣味ではない。
親子で冒険に出ている人も、夫婦や恋人同士でクエストを進める人も、全然珍しくない。フレンドにも何人もいる。
FF14はグローバルタイトル(世界中でプレイできるゲーム)であることもあって、単身赴任や出張先でログインしてくるフレンドだって日常だ。
私の例で言うならば、転勤族で引っ越した当日でもゲーム内フレンドと会話ができてホッとした。ゲームの中の日常が、現実の変化に疲れる自分を助けてくれた。もちろん引っ越した先の現実でも友達はできるし、どっちも楽しい。そのバランスがあるから日々が送れている気がする。
この映画の素晴らしいのは、この親孝行計画が「奇跡の実話」なんかではなく、「どこにでも起こりうるありふれた日常」に「既になっている」んだよというところだ。
ぜひゲームをプレイしてくださいとまでは言わない。好みもあるし。押し付けるのは嫌だし。
ただ、こんな世界で楽しんでいる人達がたくさんいるんですよということだけは伝えたい。
私が、そしてマイディーさんが、2010年から遊び続けている世界は、素敵なところですよ。
映画の反響に対するマイディーさんの記事はコチラ。
そして、ゲーム内では今回の映画のセットを見て回れる場所もあります。
この記事内のSSもこちらで撮影させていただきました。ありがとうございます!
【映画光のお父さんハウス】
電ファミニコゲーマー様企画のインタビュー撮影用に
映画に登場するマイディー家の一部をゲーム内ハウスで製作しました
見学撮影ご自由に!
ElementalDC Carbuncle ゴブレットビュート16区43番地▼インタビュー記事▼https://t.co/Z6YpWZVwtg#FF14 #映画光のお父さん pic.twitter.com/FmaLmydi4n
— Nora Rappy@Carbuncle (@norakiba) 2019年6月21日
1.あるを含めメンバーはおりません
2.再現は1Fのみです
3.近隣にお住まいの方のご迷惑になるような行為はご遠慮ください
以上の条件でもよろしい方はぜひご見学等されてみてください(*´ω`*)
場所はラベンダー15区32番になります!(2/2) pic.twitter.com/pskjlyQy8q— あるてみしあ (@lupi_misha) 2019年6月23日
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コメント
とてもイイレビュー!
パンフレットに載せようw
映画、結局見逃してしまいました。何度かいく時間はあったんだけど、咳が止まらず、
上映中にゴホゴホしてしまうので断念…。それでも行けばよかったかなって思ったけど、
アルヒャさんのレビュー読んで間違った判断ではなかったと思えました。
DVD出たら買うー!それまでは楽しみにしておこう。
>キャスさん
ありがとう! 載りませんw
いやー、スクリーンで観てほしかったんだけどなぁ。
でも作品として、FF関係なしにとても良かったので、ぜひDVDで観てみて。
役者さんは凄いねぇ。