『吉田の日々赤裸々。3』盟友へのメッセージ

お正月。
用事があって、家族より一足先に、帰省先の関西から名古屋へと帰ることになった。久しぶりのJR旅である。
なにせ田舎の無人駅から大阪を経由して帰るのだ。ドアだってボタンを押さなければ開かないようなローカル線。ただ座っているだけの時間はたっぷりある。ちょっと強めの暖房が足を焦がす。
このタイミングで読もうと楽しみに取っておいた『吉田の日々赤裸々。3』を、私はそわそわと開いた。

 

大阪の街は元旦でも大混雑であったが、思ったよりも閉まっている店が多い。
それでもタコ焼きを食べ、ヨドバシの福袋を眺め、ゲーミングPC売り場の数台がFF14のベンチマークを流しているのを確認し、551の豚まんとシューマイを抱え、大いに満喫して、私は新大阪へと向かった。

 

本を読み終えたのは、名古屋行きの新幹線車内。あとがきの中の文字列に目が留まる。

連載中、ブログやTwitter、お手紙などで感想をいただいたことも、とても励みになり、またたいへんうれしかったです。ありがとうございました。よろしければ、本書3巻のご感想もいただけますと幸いです。

(『吉田の日々赤裸々。3』赤裸々なあとがきⅢ より)

なんということだ。先手を打たれてしまった。

もちろん今回だって、何を書こうかとあれこれ組み立てながら読み進めていたのだけれど、問答無用でボールが投げられてきた気分。行くぞ!受け止めろよ?ってな感じで。
だったら盛大に打ち返してやろう。ヒットとなるか、ボテボテのゴロとなるか、ともかく書いてみようじゃないか。

三度目の読書感想文だ。

 

「モンスターとの会話」

フランスに移住したひろゆきさんとのエピソードが書かれている。
ひろゆきさんと吉田さんのやり取りを初めて見たのは、2012年の新生エオルゼアαテストプロモーション放送。
なんでひろゆき?と話題になっていたのを覚えている。印象としては、なんか相性良さそうだなこの2人、という感じ。

新生エオルゼアニコ生放送とβテストロードマップ発表
はい、こんにちは(゜ー゜)ノ 先日の放送で約束がなされたニコ生でのよしP新生αテストプロモーション。 意外と早く?年内に実現と相成りました。 話題のひろゆき氏の登場ということもあって、プレミアム会員でも入れなくなるほどの大盛況だったようです...

2人の会話は時に真剣で斬り合うようなところがあって、「それは意味がないんじゃない?」とか「それに関して考えるのは時間のムダ」ということを遠慮会釈なくバッサバッサと口にしていく爽快さがある。その意見に賛同する時も反対する時も、切り口の鋭さには惚れ惚れすることがあった。
吉田さんから見た、ひろゆきという人物の分析が面白い。今でも付き合いが続いているのは嬉しいなぁ。

「それは本当に目標でしょうか?」

吉田さんがプログラミングを学ぶ際、作ってみたという図書館貸し出し管理システムのソフトウェア。この設計プロセスが興味深い。
システムとして何を必要とし、何を作るべきなのかを整理して、大まかな形を組み立てる。
モノを作るに当たって、作業に取り掛かる前の段階が非常に重要であることが、とてもわかりやすく書かれているので、これからいろいろ学んでいく学生に読んでもらいたい章だ。
プロデューサー兼ディレクターになる人はこういうふうに思考を進めていくのだな、この視点は自分にはまるでなかったな、など気付くことが多い。

「跳ね返ってくるモノ」

SNSなどでネガティブな発信をしたり、他者を攻撃したりすることの話。
これは吉田さんに同意。そういうことをする意味がわからない。別に楽しくもないし、時間のムダだし、そんなに嫌いな人を見ている暇があったら、自分のやりたいことをしたい。
ただ、どんどん愚痴っぽくなる年寄りを見ていたら、能動的に何かをすることが少なくなって、受動的にただ日々を送るだけになると、おそらく退屈になるのだろうとは思った。暇になると他人の粗が目に付き、ベストな時の自分と比較してイライラするのだろう。だって何かをすることがなければミスもしないから、自分は能力が高いままだと錯覚できるからだ。
と、分析してはみるものの、やっぱり私は好きなことをやる時間が惜しいので、きっと他人には何も期待しないだろう。期待をするのは大切な人・信頼する人にだけだ。

「仮説と実証と議論をして作るもの」

事例として、首都高の渋滞の緩和策を挙げている。これがまた、体験に基づいた具体的な話なので面白い。交通工学系の人には、おっと思える内容なのではないか。
吉田さんの疑問や改善点はとにかく多岐に渡る。そして同時に細かい。この視点の持ち方が、全体のプランを練る立場の人には必要なのだなぁ。
人はついつい自分の専門分野を細かく見てしまいがちになる。当然それは大事なことだが、全体を見通した時に、その点にこだわることは重要なのか?と再考できるといい…のだが、立場などもあるし、なかなかそんなに上手くはいかないよね。P/D(プロデューサー兼ディレクター)というポジションは、吉田さんの思考をむしろ制限せず自由にしているのかもしれないな。
そう言えば、ウチの近所にも毎朝渋滞する高速からの合流点がある。道路拡幅以外で何か上手いアイデアはないものか、今度ハマりながら考えてみよう。

「世界」

スティーヴン・スピルバーグ監督の映画『レディ・プレイヤー1』の話。
VRオンラインゲームとリアルを行き来する若者達のストーリーだったので、MMORPGの開発・運営を手掛ける吉田さんの感想が気になっていた。
スピルバーグ監督が描いた仮想空間を見て、今後その世界に向かって進むのか、どんな世界にするのかを決める立場にある吉田さんはどう感じたのか。
できれば映画も観た後で、ここを読んでいただきたい。映画は面白かったし、落とし所もそうだろうなという感じ。果たしてこれは未来のリアルとなるのか?

「熱波」

モンハンの藤岡要さんとのエピソード。吉田さんとの出会いは10年前で、ゲームへの熱さを共有しつつ、FF14の行く末を案じてくれてもいた。
こうした繋がりが、モンハンコラボの土台となっている。熱い人々だ。
吉田さんは、本当に人の運に恵まれていると思う。それだけ誰もが「コイツはなんか面白いことやりそうだ」と感じるのかな。

第45回よしPレターLIVEのおさらい【京都FATE】
京都からのPLLはパッチ4.4特集Part.1とモンハンコラボ。4.36のパゴス編、ザ・バーン、朱雀、オメガのアルファ編、アプリなど。後半ゲストはCAPCOMの藤岡要さん、徳田優也さん。極リオレウス狩猟戦は4人バトル!

…ところで私、どうしてもリオレウス戦が苦手で転がりまくり、未だにマウントが取れておりませぬ…。
誰か制限解除でつきあってもらえませんかね…。

「定義と逸脱」

やったね、オススメミステリ選だヾ(*´∀`*)ノ
筆頭の森博嗣にはニヤリとし、綾辻行人、島田荘司にも頷くところ。
ピエール・ルメートルは未読だったので、ぜひ今度読んでみなくては。やはり『悲しみのイレーヌ』から入っておくべき?
ミステリに限らず、オススメ本はたまにどこかで紹介してくれるといいな。待っています。

「新生5周年という名の祭り」

青森ねぶた祭りのエピソード。
青森は私の母の実家があったので、私も小さい頃、ハネトの格好をしてぴょんぴょん回ったことがある、ような気がする。
その時の喧騒や、恐ろしく巨大に見えたねぶたのキリリとした表情が怖かったことを思い出した。
年に一度、地元民が楽しみにし、全パワーをぶつけてくるようなお祭りは、是非現地で体験してほしいものだ。FFで言うところのエーテルやライフストリームのような、生命のエネルギーの流れを可視化できるような、そんな場なのだ。
チョコボとモーグリ(というかファットキャットとナマズオ)ねぶたを引いてくれた少年の話は、ちょっと目頭が熱くなる。

「リアルとファンタジー」

最後のグランドキャニオンを目にした時のエピソードが興味深い。乾燥した空気のせいで、渓谷が作り物のように見えてしまうそうだ。
これは湿潤な日本の大気に慣れているせいなのかな。日本人は水蒸気というフィルタがあってこそのリアルと認識するようになっているのだろうか。
だとすると、海外プレイヤーが感じるリアル感はかなり違うのかもしれない。湿潤な風景にファンタジー感を楽しむのかも。
この辺りの率直な体感は、各国プレイヤーを集めて座談会をしてみてほしい。

「だらだらと、思いついたことを、その場限りで書きなぐることに価値はあるか」

「ビジネス書」を読みますか?という話。
いわゆるビジネス書に書いてあるメソッドや成功パターンは、既に過去のものであり、自分のケースに当てはまらない場合も多い。それならば、個人の不変的な「思想」が垣間見えるエッセイやコラムを読んでみてはどうだろうかと勧めている。
私は前回の『赤裸々2』の感想文で「この本をビジネス書籍コーナーに置いてほしい」と書いたのだが、おそらく近い考えなのだろうと思う。
吉田さんの体験や思想が読み取れる本書は、「こうすれば業績が上がりますよ」というビジネス書ではない。だが、その類まれな経験は読み応えがあるし、その時にどう考えたか、どう対処したかの実際例がわかりやすく示されている。
規模や顧客が異なる自分の組織でも何か活かせるところはあるか、決断の際に重要視したのは何だろうか、部下の採用や教育のポイントはどこだと見ているだろうか、実際参考になるかどうかはわからないが、こういう視点を持ちながら読むと、得られる知見は少なくないのではなかろうか。
偉大な経営者関連の書籍は数多くあるが、どうせ読むなら本人の書いたものをオススメしたい。他人が書いたものと比較して印象に残るのは、視野の広さ、多角的な視点だ。ここまで見通しておくものなのか、上に立つ人はここから物事を見ているのか、と驚いてしまう。
だからこそ、だらだらと思いついたことをその場限りで書きなぐることは、その本人の背負ってきた世界を他者に見せるという点において、唯一無二の価値がある。

「プレゼンする側、される側」

これは学生も社会人も、プレゼンをする側の人は読んでおくと良いコラム。ちょうど卒論発表や受験・就職の面接の季節でもあるしね。
プレゼン相手は自分よりも立場が上の人になる場合が多い。つまり自分よりも時給も高い。奪う時間の貴重さを理解しておかなければならない。
しかし、プレゼンされる側の立場で見ると、億単位の決済をいくつもしていかなければならない、一つのプレゼンの中に利益を出せる要素があるかを見極めねばならない、というのは本当に大変だね。心臓が常にバコバコ鳴ってそう。(こういう人は力不足)
プレゼンされる側が何を要求しているのか、これをきちんと見抜けていれば、例え出来レースの数合わせ要員であったとしても、「おっ」と思わせることはできるのではないだろうか。そして、そういうところから次の道が繋がったりもするのだ。

「挑戦」

アメリカにウォシュレットを普及させるという仮のプロジェクト案計画例が面白い。仮説を立て、入念なリサーチをし、予算を組んで計画を立案する。
ここまでのプロセスでも、自分の思いつかなかった視点がいくつかあったりして、プロジェクトリーダーはそこまで見るものなのかと感心してしまうのだが、さらにここからがポイントで、挑戦を失敗にしないため、厳しいチェックが多角的に行われる。障害やリスク要因の把握もせねばならない。これは長期運営を見据えたMMORPGのリーダーならではと言えるかもしれない。
どんどん挑戦してみよう!とは誰でも言えることだし、とても大事なことだ。が、実際に挑戦して成功させるにはここまでやるのだ。この差を、こんなに短いコラムで読み取れてしまうのが吉田さんの文章のお得さ?(と言っていいのかな)簡潔でとても頭に入りやすい。
シミュレーション系の講師をしたら合ってるかもしれないね。どんな視点やパラメータや調査が足りないのか、明確に示してくれそう。

「赤裸々な対談」

齊藤陽介さん(よーすぴ)との対談。
吉田直樹という人物をスクウェア・エニックスに引っ張り、いろいろと仕事がしやすいように立ち回ってくれた経緯が語られている。あまり吉田さんが自分で語りたがらない部分も齊藤さんがバンバン明かしてくれるので、レガシーの私でも「そういうことだったのか」と思う歴史があった。
齊藤さんが今後の吉田さんに期待するものも大きい。FFやDQに匹敵する強いIPを生み出せるのか、FF14が長く続いてほしいと思う一方で、新しい地平を切り拓くバイキングな吉田さんを見てみたいというのは私も同じなのである。

 

「盟友」

MMORPGは長い長いマラソンだ。第一世代MMOの頃から、いくつものタイトルが持て囃されては消えていった。プレイヤーはあちらこちらのオープンβテストを渡り歩き、少し定住し、またジプシーのように旅立っていく。オンラインゲームができる環境が限られていたこともあって、一部のマニアが愛好するジャンルのように思われていた。
今や、ほとんど全てのゲームはネットワークに繋がっている。もうオンゲvsオフゲの構図の時代ではない、はずだが、まだまだMMORPGは敷居が高いようだ。

しかし、FF14が少しずつ少しずつその敷居を下げている、と私は思う。

旧版がスタートした時は、全くそんな意識は感じられなかった。美麗なグラフィックはハイパワーのPCやグラボを必要としたし(それでも動かなかったし)、PS3はローンチのターゲットではなかったし、オンラインなのに閉じられた世界だった。それでも私が残ったのは、どうしても捨てきれないほどの美しいエオルゼアが原石のように存在したから。それだけ。
吉田さんが就任して、新生エオルゼアが計画された。それはゲームの内容を変えるだけではなく、もっともっと多くの人にプレイしてもらいたいという思いに基づいた「敷居を下げる」計画だった。
グラフィックは軽くした。チープに見せないようなカラーリングやライティングの工夫もされた。
PS3に門戸を開いた。これで、ちょっと試してみようかな、という人が増えた。
プレイ料金も、それまでのMMOの月額課金に比べたら破格の安さになった。ガチャもない。
対応言語が増え、Mac版ができ、ついにはフリートライアルが無期限となった。
もちろん、ストーリーやコンテンツも素晴らしいものだが、とにかく徹底して敷居を下げたのは、吉田さんの一番大きな功績だと思っている。

そうした特殊な経緯を経たタイトルのせいか、吉田さんが思うのと同様に、一プレイヤーである私も、吉田さんを始めとする開発・運営の方々、メディアの方々、全国の販売店や飲食店に潜む光の戦士も含めた、全てのプレイヤーの方々を盟友だと感じている。
それは身内の馴れ合いとは違う。それぞれがそれぞれの持ち場につき、互いに敬意を持ちながら、情報発信をし、店頭を販促ポスターで飾り、絵を描き、SSを撮り、プレイヤーイベントを企画し、コンテンツを満喫している。

MMORPGは、とても優しい世界だな、と最近思うようになった。
私はシーズナルのシークレット探しの記事を書くけれど、巧妙に隠れた「何か」を期間内に見つけられないことも多々ある。そういう時はネットの集合知に頼ることにした。たちまちアドバイスが寄せられ、記事の情報は補完される。そうして、私一人では完璧にならなかった記事が完璧なものに近付いていく。
この世界にはたくさんの盟友がいて、みんなで世界を作っている。一人ひとりは別に完璧な存在でなくていいのだ。プロデューサー兼ディレクターである吉田さんでさえも。
当然善意だけではなく、悪意も存在するが、それはリアルとて変わらない。悪意と感じているものも相対的な感情であり、アシエンとヒカセンのように、結局はどちらもこの世界を構成する要素として存在する意味があるのだろう。
そう考えだしたら、少し気が楽になった。

だから、これからも私は自分の持ち場で、このFF14という世界の楽しかったこと、素敵なところを、時間の許す限りお伝えしていこう。
私一人の力は大したことはないが、蛮族だって集まれば神降ろしができるのだ。

これは、この素敵な世界を守り、維持してくれた人へのささやかな恩返し。そしてこの世界が、さらにもうちょっと広がるように。
そう。それは、ただ盟友のために。

 

 

 


吉田の日々赤裸々。3 ゲームデザイナー兼取締役の頭の中

 

過去の読書感想文はコチラ。

『吉田の日々赤裸々。2』は管理職になってしまった全ての開発エンジニアに読んで欲しい一冊だ
「吉田の日々赤裸々。2」(吉田直樹著)を読んだレビュー。エンジニアに読んで欲しい一冊。
『吉田の日々赤裸々。』の懐かしい文体とリズム
「吉田の日々赤裸々。」(吉田直樹著)を読んだレビュー。吉田直樹は旧版FF14から新生FF14をローンチするまでの舞台裏で一体何をしていたのか。どこか懐かしい文体もミステリファンにクリティカルヒット。

©KADOKAWA CORPORATION 2020

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