※画像も文章も大変多くなっておりますので、スマホ等からご覧の方はご注意下さい。
※画像は開発中のものです。
はい、こんにちは。
本日は、ファンフェスロンドンの開発パネルをご紹介します。
今回は、7.0でのテクニカルアーティストとバックグラウンドアーティストの仕事を紹介するというものです。
グラフィクスアップデートでキャラクターや風景はどう変わるのか、じっくりとご覧下さい。
ファンフェス全体の司会進行はナターシャさん。
テクニカルアーティストの岡久達哉さん。
バックグラウンドアーティストの志田雅人さん。
吉田P/Dも進行や解説で登壇です。コスプレが気に入っているようですよ。
7.0グラフィックスアップデートにおけるテクニカルアーティストの仕事
前半は、テクニカルアーティスト:岡久達哉さんのお仕事紹介です。
テクニカルアーティスト 岡久達哉さん 自己紹介
岡久:
新生が出る直前の2013年、新卒で入社してからはFF14一筋でここまで開発を続けてまいりました。
そのため、FF14ないしはユーザーの皆様に育てていただいたと感じております。
本日このような場でお話させていただける機会を持てて、大変嬉しく思っております。
吉田:
岡久君の人となりのエピソードを1個紹介したいんですけど、ちょっと困った子でして……。
とにかく仕事が大好きというか、ゲーム作るのが大好き過ぎて、なかなか家に帰ってくれないんですよね。
当時は土曜も日曜も隠れて会社に来て、会社の環境でとにかくいろいろやりたい!と。
プロジェクトマネージャー達が「岡久君が帰ってくれない……。どうしましょう」みたいなね。
僕も似たような性格なんでね、やりたいっていう子はあんまり止めずに、でも体調だけは気をつけるようにねって言って、生暖かく見守ってきた10年でした。
岡久:
遊び感覚でやっていて、裏でそんなことになっていたとは思ってなかったんですけれども、その経験が今に生きているのかなと思ってます。
これまで担当してきた仕事の一部です。
グラフィクス関連で、アーティストの「これやりたい!」を実現するために必要な仕組みの整理やレギュレーションの見直しなどを行っていました。
例えば、赤魔道士が詠唱をする際に、オーブと細剣が合体する仕組みを考えたり、遅延なども考慮しつつモーションが綺麗に再生されるような処理の流れを考えたり、新種族や泳ぎモーション、召喚獣などのメモリのレギュレーションを決めたりしていました。
最近だとパンデモニウム時に実装されたエフェクト付き装備に関わっています。
まずは、アーティストからカッコイイデータが送られてきます。
そして、「エフェクトと防具が一体となった新しい装備を実装させたいです」というオーダーがありました。
さらに、「この装備は後ろのリングのようなエフェクトもデザインの一つなので常に表示させてください」というオーダーもありました。
防具にこのような大きなエフェクトが付くことは初めてで、こういった初めてやるような試みの際に仕様をまとめてゲームに落とし込んでいくところを担当しています。
いつも通りキャラの担当に実装してもらうとこんな感じです。
ほぼ完成に見えますが、実はいろいろと問題がありました。
マウントオメガに騎乗しました。こちらは大丈夫そうですね。
ただ、飛行状態だとはみ出てしまっています。
こちらも気持ち良さそうに騎乗していますが……
やっぱりはみ出てしまっています。
こちらは、エフェクトだけミニマムがかからず、大きいままになってしまいました。
このようにFF14では出来ることが多い分、新しいことを実装するとなると、既存の部分とぶつかってしまうことがよくあります。
そのため、アーティストのイメージをゲーム内で実装するためにはどうしたら良いか、既存の仕様を拡張したり、新しい仕様を追加するためのルールをまとめる作業を行っています。
難しいことはやっていなくて、マウント時にエフェクトが干渉してしまう問題に対しては、指定部位のエフェクトをオンオフする機能を新たに導入して回避しました。
例えばこんな感じのシートを用意して、全パターンの組み合わせを調整できるような仕組みをプランナーさんと協力して実装を行いました。結構力技ですよね。
スケールの問題も、単純にミニマムがかかっても問題無いように、新しい計算式に見直しました。
吉田:
魔法のような仕組みを考えたりっていうところももちろんそうなんですけど、こういうシートを使って地道な努力というのもあわせてやっています。
岡久:
単純な実装ですが、10年以上データを作り続けた上でこの対応をやると、思いの外大変だったりします。
既に組み上がった過去のデータに影響が出ないようにいろいろ仕様を加味しつつ実装を行っております。
また、多人数が集まった時のメモリ使用量や負荷などの問題が無いかも確認して、レギュレーションの再整備を行っています。
こちらはエフェクトがついた状態で100体表示できるかを検証しています。
この辺もプログラマさんと密に連携を取りながら慎重に確認を行っています。
こんな感じで、新規実装を行う際のレギュレーションや仕様の拡張を行い、安全に新しいルールを追加するサポートを主に行っておりました。
吉田:
この今のエフェクト付き防具の仕事に1年一人であたってるわけじゃなくて、物凄い数の新仕様を、並行して動いている物を短い期間で実現していくのが岡久君の仕事になっています。
テクニカルアーティストって?
岡久:
テクニカルアーティストって何?という方がいらっしゃるかと思いますが、ゲーム業界の中でもここ10年くらいで出来た新しい業種になります。
特徴としては、名前の通りテクニカルなアーティストです。
プログラムの知識も持ちつつ、アセット制作も詳しい、プログラマとアーティストの間のような存在です。
FF14では主に、アーティストの作業効率を上げる様々なサポートを行っております。
昨今のゲーム開発では、アーティストとプログラマには、それぞれ高度な専門知識が求められます。
プログラマにはクライアントとサーバーなどプログラムの専門知識が、アーティストにはツールを駆使した2D、3Dの制作方法などアートの知識が、双方高いレベルで要求されます。
そのため、アーティストとプログラマの間に知識の差が出てきてしまいます。
効率的な開発や挑戦的な開発を行うには、アーティストとプログラマが密にコミュニケーションを取る必要があります。
ただ、年々ゲーム開発の専門性が上がり、コミュニケーションが難しくなってきています。
そこで、こうした双方の分野の知識差を補う形として、テクニカルアーティストという職業が登場しました。
こうすることで、それぞれの専門分野に集中することができ、安全かつ効率的な開発ができるようになります。
FF14では先程の例のように、グラフィックスのレギュレーションや実装に関わる部分で、アーティストのイメージを実現するための整理を行い、品質向上のサポートをしております。
この他にもFF14のテクニカルアーティストは、アーティストの開発効率や品質を上げるための様々なサポートを行っております。
イメージしやすいように製作に例えると、このララフェルが他の開発者(アーティスト)になります。
そして、私達テクニカルアーティストがこれです。
つまり、アーティストがフルに活躍するためのバフのような存在になります。
皆さんもちろんバフの大切さはわかっていただけると思います!
無くてもなんとかなるけど、あると遥かに効率の良い、特にエンドコンテンツに挑戦するような際には不可欠の存在です。
吉田:
僕がゲーム業界に入った頃は、まだテクニカルアーティストという業種は存在していませんでした。
大体10年くらい前から、例えばサッカーゲームのように5000~6000ものモーションをどうやってメモリに収めて、効率良くプロのサッカー選手の癖というか動きを再現するかみたいなところから、アニメーションベースでテクニカルに寄っていったというスタートだったように思っています。
まさにさっき言っていた通り、プログラマの知識とアーティストの知識、実際物を作ることがあるくらい両方の知識を持っていて、かつ最新のテクノロジー大好き!というのがテクニカルアーティストですね。
岡久:
もう少し分かりやすい例をお見せしたいと思います。
この画像はキャラクターセクションで作製した防具のデータです。
防具は、このようなルールで作りましょうと仕様が決まった後、そのルールに基づいて、最大限アセットを効率良く作る必要があります。
なるべく1パッチに高品質なものをたくさん提供したいのですけれども、ヒューラン、ララフェル、ルガディンなど体型が大きく違いすぎて、どうしてもコストがかかってしまいます。
吉田:
もっとたくさんの装備を実装してくれよという皆さんの気持ちはわかります。
ですが見ての通り、装備は1種類ですが、その3倍とまでは行かなくとも、これだけ体型が違うと1個1個作っていかないとクオリティが出ないという状態になります。
そこをどう効率化するかというのが重要になってきます。
岡久:
そこで、ワークフローの中で時間のかかっている作業を整理していきます。
動画を持ってきたのでご覧下さい。
普段使っているツールを拡張して、ヒューランの装備をルガディンやララフェルなど他種族に変形する機能を作りました。
これをキャラ班でブラッシュアップしたものがこの画像です。
先程のツールだけではまだまだ製品クオリティではありませんので、キャラ班のブラッシュアップは必須です。
ただ、単純作業の部分をツールで簡略化することで、アーティストがクリエイティブな部分に時間を割けるように、効率面とクオリティ面のサポートをしております。
このような作業をアーティストのワークフロー全般に渡って行っているのがテクニカルアーティストセクションになります。
先程の基調講演ではグラフィックスアップデートの進捗紹介がありました。
あれらの作業は6.xと並行した開発を行う必要があるため、テクニカルアーティストセクションの方では、このような形で作業環境をゴリゴリ拡張して、アーティストが効率良く開発できるための環境を提供しております。
第一次グラフィックスアップデートのおさらい
岡久:
改めてコンセプトのおさらいです。
第一次グラフィックスアップデートでは、画面全体の美しさを重視し、総合的な美しさを向上させる方針で進めています。
特に効果が顕著なものとして、テクスチャや影を高解像度化するというものがあります。
あと、見た目への影響が大きいシェーダーの更新をメインに大小様々な要素をアップデートしていきます。
しかし、重要なポイントはこれまで築いてきたFF14のイメージを壊さないようにすることです。
ただ、このイメージを維持するということが一番大変で、各担当者が「プレッシャーです」と常に言っています。
吉田:
これは僕も直接言われますね。
「皆さんのイメージを大切にしていきます!」って吉田さんが言う度に心臓がギュッてなるって。
岡久:
テクスチャや影の解像度を上げると、メモリの圧迫や計算の処理負荷が上がるため、普段であれば絶対にできない挑戦になります。
今回はグラフィックスプログラマが参戦する本格的なアップデートのため、「やるなら今しかない!」と各セクション改善案を持ち出したところ、このような大量の項目になってしまいました。
また、現段階でもFF14ではグラフィクスをよく見せるための仕組みがいっぱいありまして、ここからさらに一段クオリティを上げるためには、1~2個の大きな改修を行うだけでは、とても変わったなという感じにはならなかったので、細かいところも含めた総合的なアプローチを取る必要がありました。
キャラクター
具体的な例を見ていきましょう。
顔
岡久:
アップデート前後のエレゼンです。
どうでしょう。肌艶や血色が良くなっていると思います。
テクスチャの解像度とポリゴン数を増やしつつ、シェーダーの更新を行いました。
特にノーマルマップと呼ばれる凹凸表現に使われるテクスチャの解像度を上げたことで、今までに出せなかったディティールを出せるようになりました。
担当者に聞いたところ、肌の角質を入れつつもリアルになりすぎないような調整にこだわったとのことでした。
ノーマルマップの微小な凹凸が入ることで、ハイライトがより細かく計算され、ぱっと見の艶やかさが増していると思います。
ノーマルマップを貼るとこんな感じになります。
吉田:
ノーマルマップというのは、ライトが当たった時に影の計算をするために内側に貼られている凹凸のデータだと思ってもらえればわかりやすいと思います。
岡久:
ただ単純に凹凸を足すだけだと、先程のような血色を表現することはできません。
今回はテクスチャの高解像度化に加えて、サブサーフェイススキャッタリング(SSS)という手法をプログラマに組み込んでもらい、より透明感のある肌を目指しました。
今までのシェーダーは、ポリゴンの上に載っている色を返す(反射させる)だけのシンプルな計算方法でした。
今回導入したサブサーフェイススキャッタリングは、ポリゴンの表面の色をそのまま返すだけではなく、実際の肌と同じように一部の光が肌の中に侵食して拡散反射する動きを擬似的に再現しています。
強い陰影が拡散して、肌に柔らかさと血色が出たと思います。
吉田:
鼻の辺りの影を見ていてほしいのですが、シンプルに影が落ちているところと落ちていないところの境界がクッキリなのがわかると思うんですね。
ところがサブサーフェイススキャッタリングを使って、ちゃんと肌の中での光の拡散を重ねていくと、凄くナチュラルな陰影に変わったのがわかると思います。
岡久:
また、バックスキャッタリングという手法も導入し、耳の先っぽが赤く透けているような表現にもこだわりました。
ララフェルはリアルさよりも人形っぽい可愛さが失われないようなところを意識したそうです。
渋いキャラクターは、質感が入ることでより格好良くなりますね。
ちなみに今回、キャラクターセクションでは、ノーマルマップを含めた肌のテクスチャを全て作り直しています。
今の段階で、顔のノーマルマップだけで300枚くらい修正しています。
ロスガルにはファーシェーダーという別のシェーダーを導入し、毛並みを良くしています。
瞳
岡久:
今回アップデートでは、ハイライトの計算を見直しました。
以前は固定位置にテクスチャで白いハイライトを描いていました。
この方式は狙った絵を作りやすいという利点もありましたが、今回これをやめてもう少し自然になるような調整を行っています。
また違和感の無いレベルで実際の眼球に近いような屈折処理も入れています。
静止画も良いのですが、時間変化での移り変わりもご覧下さい。
ハイライトの位置が変わっていきます。
他にもアウラの目のリング(虹彩)をシェーダーに切り替えるなどの調整も入れています。
今まではポリゴンで目のリングを作っていたので、よく見ると角があります。
吉田:
アウラの目のリング、虹彩は今まではテクスチャで描いていたのでちょっとカクカクしてるんですけど、今回は後から計算で綺麗に丸を描くっていう処理に変えました。
かなり綺麗に出るようになったので、虹彩の調整をしてもらえると、皆さんの望んだ印象を作りやすいんじゃないかと思います。
髪の毛
岡久:
髪はテクスチャの解像度を上げることで、より滑らかな髪になりました。
髪の毛にはもう一つこだわりの機能を入れています。
髪の毛はカメラ視点の角度によって色が変わる、特殊な設定を行っています。
この設定で何を行っているかというと、髪の毛の流れる方向を指定しています。
複雑な髪型でも、流れにより、自然なハイライトが入るようになります。
装備
岡久:
装備はディティールの向上と質感のバリエーションを増やすことに注力しました。
シェーダーの比較画像です。
メモリの上限を上げたことで、事前計算した映り込みの解像度を上げたり、色をつけることができるようになりました。
また、今回のアップデートでは物理ベースレンダリングと呼ばれる手法を導入し、ハイライトの表現力を上げています。
夜の方が違いがわかりやすいかもしれないですね。
空の黒さがしっかりと出るようになったり、ハイライトの表現が正確に出るようになっております。
ただ、FF14が目指す表現はフォトリアルを追求するものではないので、物理ベースの手法はあくまでも手段の一つとして捉えており、格好良ければ、今まで通り物理的に正しくないこともやっていくと思います。
これも既に(物理法則から見れば)嘘をついているところがあります。
吉田:
単純な物理ベースの計算、現実の光の反射の計算を正確にレンダリングするということは可能だし、スペックをかければどんどん現実に近付けていけるんですけど、僕らが目指しているのはそこじゃなくて。
ファンタジーを感じられるニュアンスなので、あえて計算精度を落としたりとか、ちょっと違った計算を入れることで雰囲気をそれっぽくしたりというのを凄く工夫してくれています。
岡久:
映り込みに色が付いたことで、空の青さが少し乗ったり、地面の色が影響して、今までよりも少し複雑な色が出ていると思います。
ハイライトの表現もより自然になっていると思います。
周りの環境の映り込みを取り込んでいるのがおわかりいただけると思います。
吉田:
今までだと単なる反射だったんですけれども、周りの環境の色をちゃんと反映するようになったというところが凄く大きな変化かなと思います。
岡久:
さらにより細かいディテールを出せるように、テクスチャの構成も大きく変更しました。
こちらは、汚れや錆の侵食具合、微妙な濃淡の差などを出すFF14特有のテクスチャになります。
これまで、メモリとデータ構成の関係で書き込める情報量を制限している状態でした。
メモリの上限アップに伴い、テクスチャの構成を大きく変えて、キャラクターセクションが好きなだけ書き込めるようにした結果がこちらになります。
吉田:
キャラ班て本当に凄いなと思うのが、Beforeが今までなので、あれしかない情報量で、今の装備の汚し具合とか経年劣化した具合とかを、本当に職人技でどこにどれだけ汚しを出すか、どこに出せばそれっぽく見えるのかっていうのを一個ずつの装備にやってきたという積み重ねでもある、そこだよね。
岡久:
このテクスチャ改善により、今まで以上に傷や汚れのディティールが出せるようになりました。
次は質感のバリエーションを紹介します。
先程の物理ベースのマテリアルにテクスチャで質感を付けて、パラメータで調整したものです。いろいろな質感を出せるようになっています。
スペキュラーがより正確に表現できるようになったので、ざらざらした質感や鋭くハイライトが入るような素材を上手く表現できるようになりました。
※スペキュラー:艶のある物体に光を当てたときに、視点と物体の角度によって光源自身が映り込んでできるハイライトのこと。
さらに金属だけでなく、非金属もパラメータを変えることで表現できます。
特に右下の木材以外の素材は、テクスチャは先程と同じものを使っていて、ハイライトと映り込みの強さだけが変わっております。
布系の素材も設定できるようになっております。
2段目のものは特に輪郭に明るいハイライトがふわっと入り、布特有の柔らかさが表現できていると思っています。
また、毛布みたいなものにはファーの機能も合わせて作成しております。
これらの質感を組み合わせて、7.0の装備は作られていきます。
さらに、物理ベースとは少し違うのですが、ガラスの表現も強化しています。
布、メガネのレンズ、小瓶などの質感にご注目ください。
モンスター
マムージャです。
注目していただきたい点は、テクスチャの高解像度化と、シェーダー対応による質感の向上です。
こちらはポリゴン数は増えておりませんので、7.0以降のモンスターはもう少しクオリティが高くなると思います。
吉田:
懐かしいですね、ここね。
ARR(新生)のPLLで、ここで戦ってバディチョコボを犠牲にして逃げたっていう場所ですね。ここ。
おまけ
岡久:
これは作業効率化の一環として作られているもので、顔のポリゴンを全部統一化しました。
吉田:
今まで全てのキャラクター・種族はバラバラなデータを持ってたんですけど、ついにポリゴンの形を統一することで、変形で各種族が表現できるようになりました。
開発的には凄まじい大歓喜でした。
岡久:
こうすることで、データ流用の幅が広がり、アセット制作の効率アップに繋がります。
こちらは皆さんがゲームで直接触れる部分ではありませんが、グラフィクスアップデートでは見た目の改善に加えて、開発効率の向上もあわせて行っております。
最後の最後のおまけ画像は、アルパカのような何か。乗れる鞍も付いているようです。
7.0グラフィックスアップデートにおけるバックグラウンドアーティストの仕事
続きまして、志田さんによるバックグラウンドの紹介です。
バックグラウンドアーティスト 志田雅人さん 自己紹介
志田:
私は今まで、環境制作やテクスチャのブラッシュアップを担当してきました。
現在は背景全体の絵作りに関するクオリティコントロールを主に行っています。
吉田:
志田さんも業界に入ってから、FF11、FF12、FF14とファイナルファンタジー一色ですね。
志田:
それを23年やり続けてきましたね。
吉田:
現状、何か環境で困ったことがあると、僕が一番頼りにして「こんな感じに志田さんなんとかして!」って言っているので、もう志田さんなくしては生きていけない体になっております。
志田:
グリダニア、リムサ・ロミンサ、ウルダハ、高地ドラヴァニア、ギラバニア辺境地帯、ラクシュミ、ツクヨミ、レイクランド、アム・アレーン、これらのエリアの環境とテクスチャを制作しました。
ちなみにこちらのリムサ・ロミンサは、イギリスのドーヴァーやイーストボーンで見ることができる白い岩壁をモデルにして作っていたんですね。
今回せっかくイギリスに滞在しているので、ドーヴァーの白い崖ホワイト・クリフスを写真に撮ろうと思っているんです。
吉田:
リムサで志田さんとは思い出があったりします。
旧FF14を担当することになって、会社の方で「A Realm Reborn」全部作り直していいぞというGOサインが出たので、じゃあできるだけ軽い環境で高品質に動きつつ、どうやって皆さんに快適に遊んでもらうかというのをプランニングし始めた時に、サンプルとしてリムサ・ロミンサを改造するというのに取り掛かったんですよね。
当然読み込みを挟まないと街全体が表現できないから、どこでローディングして移動させるか、上層と下層を移動させるかということを自分でチェックしていました。
あまりにもテクスチャと環境のクオリティが高すぎて、逆にどこをどう歩いているのかわからなくなったので、デザイナーに全員集まってもらって、ここにこういうギルドの看板を立てるよ、ここ移動した先に何があるかわかるようにしていくよ、と寄ってたかって大改造を始めたのがリムサでした。
凄く印象に残っています。その時から大変お世話になっております。
志田:
私が世界中で撮ってきた写真の一部をお見せします。
フィンランドを旅行した時の一枚です。いかがでしょうか。
ご覧の通り、いかにもフィンランドらしい写真ですよね。
この砂利と草の混ざり具合が非常に良いんです。
フォトショップで私の足を消すことから始めていきましょう。
正方形にカットし、隣に配置してみましょう。
境界の部分が見えていますね。
この境界の部分を繋いでいきましょう。はいっ、繋がりました。
フォトショップって本当に便利ですよね。
このように加工して、端が綺麗に繋がる一枚の画像を作成します。
上下左右どの辺も綺麗にループするように繋がります。
9枚並べたこの画像を、ゲーム内データとしてテクスチャに貼り付けてみます。
吉田:
今これ9枚並べてあるじゃないですか。
でも実際に使っているテクスチャと呼ばれるデータは1個なので、コピーして置いているだけです。
メモリに対して、1枚でこれだけの広範囲なエリアを綺麗にかつ広く見せていけるということなので、さらっとやっていますけれど、ゲーム開発においてはかなり大事なところです。
志田:
キャラクターとよく馴染んでいるように見えませんか?
これでフィンランドの地面がゲームのデータになりました。
さて、このテクスチャをもう少し大きい地形のデータに貼り付けてみます。
出来上がったものがこちらになります。
ラヴィリンソスの地面ですね。
このエリアは奥に白樺の木が生えていて、ちょっと北欧の雰囲気があります。
なので、フィンランドの地面がよく馴染んで見えているのではないでしょうか。
吉田:
先程、(画像が)9枚並んでいた時に「さすがにループが見えるよね。このまま使わないでしょ」というコメントがあったんですけど、実際には地形データに沿わせたり、オブジェクトと呼ばれる岩を置いたり、木を植えたり、さらにその上に草をまぶしていくことで、ループをどうやって感じさせなくするかということができたりするわけです。
さらにテクスチャ同士、道を重ねてループを上手く目立たなくしたりとかね。
志田:
地面を歩いている分には、リピートもそこまで気にはならないですね。
このように私は撮影した写真をテクスチャに加工することで、FF14の様々なエリアの地形や建物を作ってきました。
東京のとある公園を散歩中に撮影した一枚です。
時間の経過を感じさせる石畳の割れ具合が格好良いですよね。
あとこの石畳の目地のラインが真っ直ぐではなくて、ちょっと歪んでいるところも最高ですよね。
これもすぐにテクスチャ化しました。
石畳の目地に雪をまぶしてみました。
こうして出来たのが、イシュガルドの石畳です。
また、この石畳のひび割れを消して、実はラヴィリンソスにも使用していたんですね。
こんなふうに同じ素材を使いまわして別のテクスチャを作ることもあります。
このようにロンドンでもいろいろな風景を撮影して、今後の背景制作に活用したいと考えています。
背景制作とは?
志田:
バックグラウンドアーティストは、街やフィールド、宇宙、謎の魔法空間まで、プレイヤーが行動する全ての空間を作ります。
各エリアは、企画書を元に制作していきます。
ただ、企画書には大まかな設定の説明はあるんですけれども、地面にはどんな草が生えているのか、また建物の壁のレンガはどんなふうに積まれているのかといった、ディティールまで説明されていることはまず無いんですね。
ディティールの表現は、アーティストの裁量に任されています。
そこで私達は想像力を駆使して、情報を肉付けした上で様々なエリアを作成していきます。
目指しているのは、ファンタジーとして説得力があり、かつプレイヤーの皆様が感動できる世界の表現です。
環境制作とは?
次は環境制作、ライティングについてご説明したいと思います。
環境制作は、光や大気を調整することで、ゲームの雰囲気を作るとても重要な仕事です。
こちらはサベネアの空ですね。
こんなふうに、エリアのイメージに合ったユニークな空を作成していきます。
吉田:
サベネアは、空の色を緑というか青というか微妙な感じにして粘りたい!と言ったのを全受けしてくれたのが志田さんですね。
今までFF14の中で作ってきたいろんな空とか空気感とかあると思うんですけど、昼は僕はここが一番好きです。本当に。
志田:
ありがとうございます。私もここは非常に気に入ってますね。
また、雨や雷、霧などの自然現象を加えて様々な天候を作ります。
ちなみにですね、ゲーム内の雲も撮影した写真を加工してテクスチャを作成しています。
また、ダンジョンなど屋内に関しても、ライトサイズの調整を行うことで、FF14らしい印象的な空間を作ることに注力しています。
ライティングというのはとても面白い仕事なんですけれども、反面、とても難しい仕事でもあるんですね。
何が難しいかっていうと、チーム内で完成のイメージを事前に共有するということが非常に難しいんです。
制作を始める時に、ゲームプランナーはライティングのイメージを相手に伝える必要があります。
ただ、光という形が見えないものに対するこだわりをわかりやすく言語化するというのは、かなり難易度が高い行為なんです。
そのため、ゲームプランナーからのライティングのオーダーは、大体こんな感じになります。
吉田:
笑い話じゃないですけど、今(ステージの)僕らから見てお客様が座っているところの中間層って赤いライトが点ってます。
この環境って、ここに開発者が3人いて、おそらく同じライティングが見えていると思うんですけど、この皆さんが映っている赤いライトが「クールだな、格好良いな」って感じる人もいれば、「ちょっと落ち着いていい具合の色だな」って感じる人もいる。
なのでゲームデザイナーの発注も「気持ちの悪い感じで」って言っても、頭の中に想像している気持ち悪さは本当に人によって違っているので、一旦志田さんのセンスで「気持ち悪い」をやっちゃってください、というのがあります。
志田:
つまりですね、アーティストに求められているのは、そういう細かいやり取りをしなくても意図を汲んで、その場所に合った良い雰囲気を作ることなんですね。
なので私は「今回求められているのはこんな感じかな~」と日々想像しながら制作を行っています。
吉田:
スタートはどうしてもニュアンスから始まるからこそ、作ってもらった環境に対してのフィードバックは、僕はもうとにかくできるだけ具体的にするように意識しています。
例えばハイデリンのマップだと、「もっとブルーのクリスタルの反射が強く欲しいから、白と青を上手くコントラスト付けて、暗さは飛ばしつつ青を強くしたい」といったように、志田さんが「イメージがちゃんとあるならそれに合わせてやるぜ!」というのに対して、できるだけちゃんとフィードバックをするのが僕の仕事です。
グラフィクスアップデート 背景はここが変わります
志田:
7.0でのグラフィックスアップデート、背景に関する今後の変更点についてお話します。
草
以前から吉田さんのお話にある通り、まず草が綺麗になりますね。
全てのエリアがこんなふうに変わりますので、楽しみにしていただければと思います。
エーテライト
また、金属表現が変わることも以前からお伝えしていました。
エーテライトは、ぜひ回転しているところを見ていただければと思います。
吉田:
明確に反射とかがあるから、一般の人にもわかりやすくなるよね。
志田:
金属とクリスタルの質感が向上しているのがわかりますね。
フォグ
私が注目してほしいのは、フォグ(大気)の表現が変わることです。
霧のオールド・シャーレアンですね。
こんなふうに変わります。
フォグの、より細かい制御が可能になっています。
特に太陽周辺は光が拡散することで、より綺麗な絵になります。
吉田:
より奥行きと高さが出たので、物凄く3次元的な絵作りがしやすくなっています。相当調整してくれたからこうなっているとは思いますが。
めちゃくちゃ気に入っているので、よりリアルな冒険を楽しんでもらえるんじゃないかと思います。
志田:
こちらはエルピスです。
より光が柔らかい印象になっているかなと思います。
そしてイル・メグですね。
時間帯によっては、こんなふうに湖に霧が発生することもあるかもしれません。
こんな感じで、現在は既存の霧の表現を調整している最中です。
影
影の表現も変更点があります。
この画像では、手前の建物には影が入っているのですが、中央の奥に建っている建物には影が入っていませんね。
影の描画というのは処理負荷が高いので、今まではごく近い範囲しか影を表示させることができませんでした。
吉田:
描画負荷対策のために、どこまでで影を諦めていたかというのが一目瞭然ですよね。
志田:
影の描画範囲は約2倍に広がる予定です。
より自然な景観になるので、アーティストとしては非常に嬉しい変更になりますね。
また、アンビエントオクルージョンも改善されます。
これは、部屋の隅や家具の設置面などに入る陰影表現のことです。
見比べるとわかるのですが、物の設置感がよく出ていると思いますね。
ディティールマップ
また、ディティールマップという機能も実装されます。
カメラをオブジェクトに近付けた時に、質感が以前よりもよく見えるようになります。
壁の表面にカメラを近付けてみます。
現状はこのような見え方ですね。手前がちょっとボケています。
今後はこのように変わります。
壁の質感が鮮明になったのがわかりますよね。
微妙な変化ではあるんですが、このような実装も追加予定になっています。
今回ご紹介した以外にも、まだまだ変更点が入る予定です。
今は新しい仕様にあわせて、過去10年間で作成したデータを、順次調整している最中です。
修正するエリアの数が700くらいあるんですよね。
本当に終わるのかなとドキドキしているところです。
大変ではあるんですけれども、このタイミングで過去のエリアを調整できるのは、開発者としてはとても嬉しく思っているんですね。
というのも、10年も開発を続けていると、10年前の未熟な自分が作ったエリアを見るのがちょっと辛くなってくる時があるんです。
今だったらこう作るんだけどな、と後悔しているエリアがあるので、この機会にこっそり直そうと思っています。
既存のエリアの変化も楽しみにしていただきたいのですが、今後楽しみにしていただきたいのはやはり新しい「黄金のレガシー」のエリアになります。
新しいエリアは画面内のオブジェクトが増えて、情報量がだいぶ増える予定です。
今回はどのエリアも、遠い異国を旅するような気分が味わえると思いますので、その景観をぜひ楽しみにしていただければと思います。
以上で開発パネルを終了させていただきます。ありがとうございました。
最後はお二人からご挨拶。
岡久:
本日はありがとうございました。非常に楽しくお話できましたが、皆さんいかがだったでしょうか。
7.0に向けて、グラフィックスアップデートはより細かな調整や、可能な限りギリギリまで各アセットのコンバートを行って、クオリティを上げていきたいと思います。
本日はありがとうございました!
志田:
今日はお話を聞いてくださいまして、どうもありがとうございました。
今回のファンフェスで、新しいエリアのスクリーンショットもご覧いただいたと思います。
それを見て、「おやおや? もうだいぶ出来ているのでは?」と思われた方もいるかもしれません。
しかし、先程も申し上げた通り、やらなくてはいけないことが山積みなんですね。
ただ、皆様にできるだけ楽しんでいただけるように、これからも完成を目指して作り続けたいと思っています。
ですので、FF14「黄金のレガシー」どうぞご期待下さい!
今日は本当にありがとうございました。
グラフィックス好きにはたまらない技術話が盛り沢山で、楽しい開発パネルでしたね!
自キャラがもっと可愛くなるのも、風景がガラリと印象を変えるのも、とても楽しみです!
志田さんの過去の開発パネルはコチラ。5.0「漆黒のヴィランズ」の頃のものです。
コメント
みんなの何気ない一言を実現するために見えないところでいっぱい苦労してるんだなぁ。
今回のでは触れてないけど、パニッシュさんが言ってた無人島のグラナリーオフィスVの屋上、
サンルームみたいなところの透明処理はどうやって解決したのか知りたいー。
クリスタリウムのドームも半透明にならないのかなー?
>キャスさん
プレイヤーのやりたいことは、きっと開発の人もやりたいことなんだろうね。
無人島には透明処理いくつか入ってるけど、インスタンス空間だからテストついでに入れてみたのかなぁとか思ってた。
クリスタリウムはフィールドだから処理大変そうだけど、どうなるかな?
ちょっと前にデスクトップPC逝っちゃって今はお世辞にもゲーム向きとは言えないノートで遊んでるけど…このアップデート後まったく動かなくなりそうで何か怖い
>匿名希望のお客様
ノートだと確かにドキドキですねぇ……。
設定をかなり落とせば動ける感じなのか、さすがに厳しくなってくるのか。
PS4での動作はするようですし、それに並ぶくらいのスペックなら動くのかなとは思っているのですが。
コメントありがとうございます!